人とのつながりを力に 未来へつなげる水源の森
吉田 進さん
「たくさんの人とのつながりがNPO森の財産なんです。」と語るのは、理事長である吉田進さん。今回、これまで行ってきた活動の数々と、経験の中から見出した、ボランティア活動を行う上での大切なことを教えてもらいました。
(取材日:平成25年12月26日)
特定非営利活動法人 森 理事長
株式会社 荒川瀧石 代表取締役
吉田 進さん
もともと、森林組合から炭焼きの事業を引きうけたのが始まりだったんです
NPO法人森はどんな経緯でつくられたんですか?
それで、滝沢ダムの抜根と流木についても、木炭工場の炭化の事業として当法人で引き受けることになりました。根っこと流木は一般廃棄物の扱いだったので、その処理には許可が必要だったんですが、当時、NPOに関する法律(特定非営利活動促進法)ができたばっかりで、「それじゃあ、NPOの認定を受けて、一般廃棄物処理業の許可をとろう」ということになったのも、団体設立のきっかけになりました。
なるほど、最初はなかなか大変ないきさつがあったんですね。
もともと大滝は炭の生産地であり供給地だったんです。戦時中は、日本で一番生産量が多かったようですね。当時は農協を中心にやっていましたが、炭問屋も多くあって、大きい倉庫があちこちにあったとか。だから東京の方へ文化薪、木炭を供給する、一大生産地だったんですよ。
次に、NPO森の取り組みについてお聞きしたいと思います。これまでにどんな活動をされてきたんですか?
そうですね、色々やってきたんですが、こちらの活動の一覧表の中から順番にお話ししますね。
ひろがる炭の活用方法
NPO森設立の発端となった先ほどの炭化処理事業では、さまざまな炭の活用方法についての研究も行ってきました。炭を建築用の床下調湿剤や、水質浄化剤の実験を行い、販売もしています。粉炭については農園へ提供して、土壌改良等の調査・研究をしてきました。提供先のひとつであるシルバー農園さんの土は、いわゆる「ねば土」というもので、もともとガチガチの粘土質だったんです。果樹には、ほくほくしたクッション性のある土がいいんですよね。足で踏みこむと沈むような土が。それも、粉炭もいれたことで改善しました。他のいちご農園さんにも提供して実験してもらったら土が良くなって、いちごが甘くなったそうですよ。そんな感じで、いろいろと調査・研究用として無料で提供してきましたね。
①木炭工場の運営によるダムの伐根、流木の炭化処理、炭の活用支援・研究 |
②水源林整備およびシカ害対策の実験 |
③国立公園や河川の清掃活動 |
④滝沢ダム周辺の緑化活動への参画 |
⑤所有する山林での切り捨て間伐の実施、作業道の開設 |
⑥トンネル熟成焼酎の貯蔵、試飲会の実施 |
⑦荒川源流ログ技士会の設立、ログハウス・ログベンチの制作と寄贈 |
⑧水力発電勉強会の実施(その他、各種協議会や関係団体への参加・連携) |
NPO森が所有する山で、「水源の森」の調査・研究を実施
実際にどんな方法で調査を行ったんですか?
人工林内で区域を決めて、皆伐をする場所、伐採率、伐採方法などそれぞれ条件を変えて間伐をする場所、伐採しない場所、さらに、土の上にあった葉や枝などを除去した場所、そのままの場所、というようにいろいろと条件を分けて、広葉樹含め草木がどのように進入してくるかどうかを調べたんです。土の中には、年代ごとに多種多様な草木の種が入っていますから、光が当たれば自然と芽は出るんですね。一年後にどんなものが生えてきたかを、植物学者を呼んで全部細かく調べました。それと、シカ害の調査も併せてやっていましたね。これは大学生と共同で実験・開発をしました。今後、この調査が何かの事業の役に立てばいいと考えています。
※調査資料の閲覧をご希望の方はメールにてご連絡ください。
メールアドレス:npo-mori@muse.ocn.ne.jp
国立公園や河川の清掃活動は、参加者の交流、情報交換の場でしたね
ダム周辺の緑化事業や、補助制度を活用した間伐、作業道の開設もやりました
管理事務所から委託を受けて、滝沢ダム湖岸の伐採、周辺地の緑化事業などもやりましたね。それに、国の森林整備加速化・林業再生事業として、補助制度を活用した切り捨て間伐・作業道の開設について県から話があったときに、私たちも手を挙げて、最初のほうは直営、その後委託で数年にわたり実施してきました。今後は、森林整備推進のための啓蒙活動に切り替えていこうと考えています。
地域活性化のために、「トンネル育ちの焼酎」をつくりました
まろやかに熟成されて、うまいんですよ
実際、トンネル内に寝かしておいた焼酎の味って変わるものなんですか?
トンネルの中で熟成した焼酎って、味がまろやかになるんですよ。東京農業大学の教授のアドバイスをもらいながら、自信をもって出せる良いものができました。数がないので限定販売になってしまいますが、源流郷おおたきで扱っていただけるようにもなりました。これまでに何度か試飲会をしてきましたが、最初は「本当にうまくなるもんかい?」って疑ってた地元の方からもお墨付きをいただき、評判は上々です。今後、さらに盛り上がって、皆さんにトンネルを活用していただくようにできればと思っています。NPOじゃあ商売はできないから、誰か手が挙げてくれる人がいればいいんですけどね(笑)
未経験者が集まって、一からログハウス作り
荒川源流ログ技士会にはどんな方がいらっしゃるんですか?
荒川源流ログ技士会の会員は、皆さんいろんな職業の方で、ログハウス作りに関してはほぼ素人の方が多く集まったんですよ。それで、秩父の森林組合にチェーンソーの使い方から何から全部を一から教わって、NPO森でもチェーンソーを揃えました。皆さんだんだんと技術が向上していきましたね。好きな人は毎週来ていましたよ。そのうち自分たちでログハウスを作れるようになりまして。もともと荒川流域の方がら参加を募ったんですが、秩父以外の方が多かったですね。
「私もやりたい!」っていう方は新規で参加できるんですか?
大いに活用すべき資源である「水」。水力発電の勉強会を実施しています
東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの注目がより高まってきています。秩父が水力発電の立地に恵まれているのは、豊富な水、そして落差が大きい地形、広大な面積です。秩父地域では、年間約8~9億トンの降水量があるといいます。大滝だけで約3億7千万トン。赤平川流域でも約2億6千万トン降るんです。だから、治水、利水、農業用水の他に、水力発電をもっと重視して、最大限活用すべきですね。施設についても、今のコンクリート技術を使えば200年は持つといわれています。意外と知られていないのですが、秩父地域には、水力発電施設が10か所あるんですよ。合計5万5千世帯分の発電能力があります。秩父市大滝の強石(こわいし)区には、大正10年から動いている発電所もあります。秩父市影森に事業所がある昭和電工さんも、事業所の80%の電気は久那の水力発電所からの電力でカバーしているようですね。こういったことも、もっと多くの人に知って欲しいですね。 主な取り組みとしては、こんなところですね。いろんな方々にご協力いただきながら、森林や水といった資源を守り、活用し、地域の活性化、さらには雇用の創出を図るための活動を行っています。
大切なのは、いろんな場に出て「人を知る」ということ。
それに、謙虚でいること。
NPO森には、どんな方々が参加されているんですか?
ボランティア活動をするにあたって大切なことってなんでしょうか?
まず大切なのは、いろんな場に出て「人を知る」ということ、そして、他人や他団体に対して思いやりをもって、謙虚な活動を心掛けることですね。多くの人と交流して、どういう人たちが、どういう動きをしているかを知るのってすごく大事なことなんですよ。私たちの活動には、他の団体・関係者との調整はつきものです。そんなときには、それぞれの人・団体の考え方・立場をわきまえて、話の仕方、伝え方も変化させることが必要です。そうじゃないと、伝えられたことも伝わらずに、ぶつかってしまいますから。全部が全部こちら側に有利になるということはないです。こちらの意向が5割、4割だったり、あるいは3割ぐらいになることもあります。相手も立てなくちゃいけないですからね。そんな中で、「ちょっと他の見方をしてみて、こちらの案はどうでしょう?」という風に、こちらの専門分野のことはちゃんと提案していくということですね。
交渉する相手の立場で物事を考えられるかどうか、ということですね。
いろんな意見を持つ人たちの中で議論するというのは大切なことなんですよ。反対意見というのは貴重で、「それはどういった理由ですか?」と聞ければ、話に広がりが出ますから。お互いに影響し合える関係で、その分野で総合的な方向性をつくっていけるのが一番いいんじゃなんじゃないでしょうか。ギブアンドテイクです。これは地域間のことでも言えますね。
経験を積んだ人が教えてくれる、本当にためになる情報とは、「失敗談」です
それに、一つの結果を出すには、それ相応の時間が必要です。こと森林は、50年、100年という長い時間をかけて育てるものですから、そこにはやはり経験がものをいいます。経験がない人は、机上の知識と、今現時点で見える範囲のことだけで物事を判断してしまいがちです。
本当の知識というのは、実体験から生み出されるということでしょうか。
そうですね。こんなことも言えます。自分が体験することがかなわなくても、経験豊富な人とつながりがあると、そこから、経験にもとづいた情報を得ることができる。私はそんなときに、「本当にいい話を聞かせてもらってありがとうございました。今日はもうかりました。」っていうんです。よく考えてみてください。自分が時間と労力をかけてかせいだ知識を、一瞬で教えてくれるわけじゃないですか。情報はお金ですよ。だから、「もうかりました」です。そういう情報を教えてくれる人が周りにたくさんいれば、困ったときには、「私の経験だとこうですよ」ってすぐさまフォローを出してくれる。 大抵の人は成功談、良い話しかしてくれませんが、本当に信頼関係を築けた人は、「失敗談」をしてくれます。これが本当にためになる情報なんです。私たちだって過去数多く失敗をしてきたし、これからもします。「失敗は成功のもと」と言いますけれども、小さな失敗は成功につながりますが、大きな失敗は成功には至りません。立ち直れるか立ち直れないかの分岐点は、まわりに人脈があるかどうか、失敗を教えてくれる人がいるかどうかということなんですね。それは結局、自らその環境をつくることができるかどうかということになるわけです。
私自身としても、止まることなくこれからも走り続けたいですね
やっぱり、事業の成功には、自分たちがどんな考えをもって立ち振る舞うかがカギなんですね。
だから、今の私からも積極的に情報提供をして、森林に関するいろんな活動をサポートしていければと思います。もちろん、私もやりたいことはたくさんありますので、私自身としても、止まることなくこれからも走り続けたいですね。